福島出身で今帰仁に工房を構えて創作活動を続ける宮城友紀さんに、インタビューさせて頂きました。
日常で感じることから湧いてくる創作意欲。宮城友紀さんの自然な表現が言葉から読み取れますので、ゆっくりお読みください。
◆紅型制作の時、大事にしているこや想い。
びんがた制作と言うと、つい実際の作業のことを思い浮かべます。本当はデザインし型紙を起こすところから、びんがた制作は始まっています。
大切なのは、型置きです。うっかりすると、型がずれてしまって、柄が二重に見えたりするような作品になったりします。それでは失敗なので、そうならないように慎重に行います。一言で慎重にと言いますが、その中には、型板にしっかり地張り糊がついているか、板と生地の間に空気が入っていないか、生地目が縦糸横糸が直角であるかという貼る作業の注意点があります。また、型糊の硬さ、ヘラの動かす回数、向きにも気を配ります。この型置きの作業での左手の添え方も忘れてはいけません。型紙をしっかり板に押さえつけるように、左手を添えます。そして、そっと型紙を持ち上げる。ゆっくりと、縦糸の方向に沿って。このすべてが上手くいき、初めて綺麗に型が置けるのです。
型置きが終わった後は、地入れというにじみ留めの作業をします。すごく薄い濃度の糊の液体を布に染み込ませます。この液体の具合が、生地によって変わるのです。布に織り模様があるとにじみやすかったり、無地で糸がしっかり詰まっているとにじまないぶん、生地の表面にしか色が入らなくて裏から見ると白かったりするのです。
次は、豆汁で顔料を擦り、着色する色を作る作業になります。これらは工程の中でもごく一部で、びんがたの作業一つ一つ自体は誰にでもできる簡単なことにも思えます。しかしすべてに意識をおき、またここに続く他の作業にも、すみずみまで気を遣いつづける、それがびんがたを染めるという事です。
そう思うと、染める作業も、それを上手くいかせる道具の準備も、型紙を彫ることも、そのデザインを起こすことも、そして何をデザインに取り入れるか、いつも考えながら生きることも。すべてがとても大切で、私はその生き方を続けます。(終)
◆紅型で表現したいこと。
びんがたでは、自然の美しさに感動した心で見た世界を表したいです。10年前から今帰仁村に住んでおり、ここにはとてもたくさんの自然があります。日々近所を散歩していると、どこからともなく日本一大きな蝶、オオゴマダラが飛んでいるのを当たり前に見かけます。それは、ちょっと疲れて歩いていてて、あ!っと見つけたとき、気持ちがふっと軽くなります。私にとってそれが嬉しい瞬間で図案にしたくなるのです。数年前、クワンソウの花畑を着物のデザインにおこしました。クワンソウとはオレンジ色の”小ぶりな百合”の形をした花です。右も左もわからない今帰仁に来てばかりの頃、この地で有名な畑を教えてもらいました。それがクワンソウの畑でした。
また、それから数年後おいしい蜂蜜を探していて、ラベルがかわいい蜂蜜を見つけました。その蜂蜜屋さんは、ミツバチ教室を開いていて、ミツバチがどの花で光を集めているかを教えてくれました。そして、当時の私にはとても珍しかったパイナップルの花が咲いている畑を案内してくれました。それが次の着物のデザインになりました。このように、暮らしの中で出会った小さな一つ一つが感動となり、デザインにつながっていきます。心から凄い!と思ったこと、自分自身が強く感動したことをついデザインにしています。慌ただしい日常の中、小さいけれど心が震える出来事、それを紅型のデザインにせずにはいられないのだと思います。
しかしながら、古典柄ほど色のチカラが強くて、迫力があるものはなかなかありません。依頼で古典柄を染めることがあります。古典柄は博物館や書籍で見ることができます。オリジナルデザインに取り組んでいると忘れがちな大切なものを、古典柄は思い出させてくれます。なので私はオリジナルデザインだけではなく古典柄も染め続けて、その色を表し続けます。(終)
◆自身の紅型の押し・魅力。
ここまで、文章を書きながら、自分自身を振り返ってきました。そして思う事は、身の回りをデザインするぞと言う気持ちの表れで、スケッチしてデザインにすることが多々あります。それが作品の雰囲気になっています。
例えば、最近よく染めているショールは、国頭村の自然観察会で歩いた林道で、初めて出会った生き物、リュウキュウハグロトンボをデザインしています。このトンボは、オスの羽が黒く、そして中央部は青いトンボなのです。私は青い生き物を初めて見た気がします。また、トンボなのに片側2枚の羽がそれぞれに動き、まるで蝶のような飛び方をするのです。そんなトンボは生まれて初めて見ました。色の美しさも、羽を動かす様子も優雅としか言いようがありません。そんな湿り気のある森をどうしても描きたくなってデザインにしました。
また、SUPというスポーツをしている方を知りその浜に行ってみました。いきなり行ってみたのでそこには誰もいませんでしたが、代わりに夏の大潮の干潮の大きく引いた浜がありました。ぱっと見、どこまでも岩礁が続いていて、いつもなら海に見えるところも歩いていけそうでした。どこまで歩いて良いか分からなくてこわいと思った時、足元に目をやると、青い魚がうじゃうじゃ小さな潮だまりに泳いでいることに気付きました。その横にはヤドカリ、ウニにカニがあちらにもこちらにもいるのです。生き物がこんなにたくさんいる様子を今まで写真でしか見たことがなかったので、とても驚きました。どこまでも歩いていけそうなくらい海は広かったけれど、結局何時間もの間、その1つの場所に座りっぱなしでカニたちを見てスケッチに描いていました。
時に細かすぎたり、時に同じような模様がたくさん描かれていたりします。実際に、森や浜辺でそう感じて見ている、なのでそのデザインになりました。森の生き物は捕獲も、飼育もできません。代わりに感動を持ち帰り、びんがたに込めてしまうのが私の魅力と言えるでしょうか。
◆紅型の作業工程で好きな作業は?
びんがたの工程で好きな作業は色差しです。なぜならば、1番安心するからです。安心する理由は、修行しているときの気持ちを思い出すからです。私が修行していた頃、弟子としての仕事は色作り、色差し、2度刷り、蒸し、洗いでした。なので、今でも型置きはとても緊張します。
色作りの時間は先生や姉弟子とゆっくりお話をしながら過ごすとても大切な時間でした。日々の様子を話したり、昔のびんがたはどのように染められていたか、先生のその上の世代はどんな風だったかなど、様々なお話を聞かせていただきました。今は1人で色を作ります。
また、その好きな色差しは、型置きされた、まっさらな生地に朱(赤)の色をまず染めます。型置きされた後の生地の色は、生地の白さと、青い群青を入れた糊の色です。青い群青を入れても、糊は薄く広げるので、生地は灰色に見えます。その概ねモノトーンのような世界に、一色一色色を出していく。その後、2度刷り、隈取りと色を重ねるので最初に入れる色差しの色は、完成とは全く違うのだけれど、それは美しい色なのです。
そして、やっぱり好きなのは洗いです。染色を表すとき水元と言う方が多いでしょうか。型置きしてからずっと糊がついていた生地の表面、蒸しが済んだ後、その糊をふやかすためにお湯に数時間浸します。その後、水道のホースから勢いよく水を出し、ふやけた糊を水圧で洗い流すのです。その時、今まで糊でかくれていた模様の輪郭が現れます。その美しいこと。完成ではないけれど、完成した姿を想い起こさせる、嬉しい瞬間です。
◆紅型を通して得た喜びやエピソード。
・びんがたデザインのモチーフに身の回りの自然の美しいと感じた植物や生き物を選びます。展示会で作品を見てくれたお客さまの1人がとても気に入ってくれました。”いつも見ているものがこんな風に変わっているなんて、考えたこともなかった”とか、"見ているとここにも生き物がいる、反対側にもまた!と発見がとまらなくて、ずっと見ていても飽きない”と感想をお聞きしました。同じ沖縄に暮らす人が、同じ沖縄の景色で、感じ方がちょっと違っていると見たことがなかったり、同じものに感動していた、と喜んでもらったり。同じ沖縄で違う感じ方をし、だけど作品を見て感動しあえる。びんがたを見ることで、沖縄の日常を共感できるのは嬉しく思います。
最近では、本に小さな絵を提供させていただきました。その絵は、作者の沖縄の気候を表したいと言う基本的なデザインがありました。季節ごとに咲く花、留まる鳥、実るものを季節に応じて描きました。私自身も季節ごとのイメージをしっかり持っています。しかし、沖縄に永く暮らし、気候をよりよく知る方に、さらに詳しい話を教えていただいたり、その教えを聞いたあとに出来上がった作品に感動していただいたことは、忘れられない大切な出来事となりました。
◆紅型の面白さや難しさは?
・びんがたの面白さのひとつに、美しさにたくさんの種類があることではないでしょうか。大きな模様に大胆な色分け、力強い色、古典のそれはただただ美しい。しかし昔のものでも、細い線で細かく何度も繰り返される柄があります。織り模様にも匹敵する美しさです。そういった古典とはまた別で、柔らかな生地に繊細な柄をのせるショール。アイテムが現代のものだからか、着物よりも現代的な美しさに感じます。着物の繰り返す柄の美しさに対して、ショールや帯のドーンとひとつ、絵が飾られるようなグラフィックなびんがたも迫力があって良いですよね。そのいくつかの美しさを交互に堪能できておもしろいのです。
・びんがたの難しさは、前述した型置きでもあります。その時に使う糊の柔らかさは型置きの作業にとても影響します。糊が痛まないよう冷蔵庫で保管するので、冷えて硬かったりします。その糊の調子を整えるのも職人の仕事です。そして、繋ぎ。柄と柄をきれいに続けために、型紙には合い口が彫られています。合い口とは今置いた方のデザインかたはみだしている印のこと。その印と柄に始まりが合うように目で確認して次の型紙を置きます。その作業は思わず息を止めているかもと思うほどです。また、この作業中、持ち上げた型紙は繰り返し隣の型置きに、すぐに使います。でも型置きとは、型紙の上から糊を薄く塗り広げること。型紙の厚みの分しか無理はつけませんが、型紙には糊の成分がしっかり付いています。そのノリが乾いてしまっては、型紙の紗の目が詰まります。なので、エアコンなど空気が乾燥したり、風を当てるようなものは全てオフにします。型置きは少し暑いです。
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